妻曰く、異国に住むに当たっての心構えは『一度通った道は必ず覚えよ』だそうです。
日本へ来て間もない外国人は、言葉もわからず、特に非漢字圏の人々は日本の文字が全く読めません。人も標識も頼らずに自分が今どこにいるのか把握する事は死活問題になってきます。妻が来日した当初は、日本語もほとんど話せず漢字も全く読めませんし、英語も話せません(英語は今でも話せません)でしたので、外出の時は五感をフル活用し、命がけで道を覚え、把握したそうです。少々おおげさに聞こえるかもしれませんが、異国で迷う事は想像以上にストレスフルで精神的に辛いことなのです。
とはいえ、妻は元々方向感覚の優れた人間ではありませんでした。岩にしがみつくくらいのド根性で道を頭に叩き込んでいくうちに、しだいに方向感覚が養われていったそうです。それから幾年が過ぎ、今では一度通った道は必ず覚えられるようになりました。タイから日本へ生活基盤を移していくうちに獲得した適応能力といえるかもしれません。
妻は日本で獲得した方向感覚を、現在は自動車の運転に活かしています。知らない道に出ても、自分が向かうべき方角を理解し、迷う事はまずありません。私達の車にはカーナビがついていませんが、妻が運転している時、もしくは妻が助手席に座っている時、私はとても安心できます。なぜなら私は方向音痴だからです。

